ゼロからイチを産み出すのは苦しい・・・、だからこそ心に残る
ピアノと歌声だけのシンプルな音
しかし、2人の声が重なると
不思議と深い深い音になる
『虎』という曲名
最後に虎になれずに溺れるとあるが・・・
いったい何のことを意味しているのか?
気になる
人の胸に届く
人の胸に残る
まさにそんな楽曲
ハンバートハンバートは佐藤良成さんと佐野遊穂さんの2人によるフォークデュオ、2人は実の夫婦でもあられます。
ミュージックビデオでは、お笑い芸人であり、作家の又吉さんが出演されていますが、ハンバートハンバートの大ファンということで友情出演されているとのこと。
『虎』は2010年に発売された「さすらい記」というアルバムに収録されている曲で、シングルとしてのリリースはされていません。
「さすらい記」の収録バージョンでは、ギターとベース、ストリングスの音が印象的で、豪華で華やか音でしたが、このピアノバージョンは非常にシンプルで音数が少ない。
その分、二人の声の重なり、響きが本当に心地よく聴こえてくる。佐藤さんの低音の響く声をベースとして、佐野さんのハモリが絶妙すぎる。
また、歌詞が良い。
産みの苦しみに共感する。
作詞作曲:佐藤良成
何を見ても何をしても
僕の心凍えたまま
外は花が咲いていても
僕の庭は冬枯れたまま
どこにいても誰といても
僕の時計止まったまま
深い深い穴の底で
一人惨めにいじけている
人の胸に届くような
そんな歌がつくれたら
だめだ、だめだ、今日はやめだ
メロディひとつできやしない
酒だ、酒だ、同じことさ
昼間からつぶれて眠る
何を見ても何をしても
虚ろな目は死んだ魚
吐き出されたコトバたちが
部屋中溢れて腐っている
人の胸に残るような
そんな歌がつくれたら
負けた、負けた、今日も負けだ
光るコトバ見つからない
酒だ、酒だ、飲んでしまえ
虎にもなれずに溺れる
虎にな・るの意味を辞書で調べてみると、「ひどく酔う。酒に酔って意識が乱れる。」という意味が記述されています。
また、「溺れる」には色々な意味があるのですが、ここでは「こだわりすぎて失敗する」というのが、最もシックリくるのではないかと思う。
すなわち、「虎にもなれず溺れる」の意味は「酒に酔うこともできず(現実逃避もできず)、こだわって曲づくりする、そしてはまる」という意味になる。
一番では酒に酔って、昼間からつぶれて眠ることができたようですが、二番では酒に酔うこともできず、人の心に残る歌を創りたくて思い悩む。
人の心に伝わり残るそんな歌がつくれたらという想い、創作する産みの苦しみが伝わってきます。
1を10にする、10を100にするのも簡単ではないですが、やはりゼロから1を産み出すのはしんどい作業だと思う。
何故かと言うと1になるまではずっとゼロだから・・・、成果が出ないで続けることは本当にしんどいことです。
そんな創り手の苦しさ、想いがつまった楽曲
さらには、そんな歌を創りたいけど、難しいとしながら、最終的には人の心に届く歌になっているところが逆説的で興味深い。
産みの苦しみに共感できる名曲でした。
音楽ソムリエ
なゆた